よく使うことばを解説『業務システム』
技術的な領域にいると、日常ではあまり使わない難しい用語が頻繁に出てきます。
システム という用語はまさに、伝わりづらい言葉の一例です。システム を含む言葉の一つには、 『業務システム』 がありますが、今回はこの言葉について考えてみます。
私は、言葉の意味は伝われば良い と考えますが、 一方で 伝わらない言葉はトラブルの元 でもあります。
— ここで問題です。
『顧客管理システムと統合基幹業務システムを、あなたの業務システムに組み込むとどのようになりますか?』
この文章は成立していません。
なぜならシステムは、 厳密には「組み込む」「構築する」「実装する」「回す」「最適化する」といった操作の対象として扱う言葉ではなく、関係性や構造を指す言葉だからです。
ただ文脈によってなんとなく伝わるケースもよくある言葉で、 だからこそ複数のシステム が出てきた時に、何を指しているのかわからなくなってしまうわけです。
今回は、業務システム という言葉をケーススタディすることで、言葉のズレがどこで起きるのかを整理してみたいと思います。
本記事の目的は、「業務システム」という言葉の正しい定義を決めることではなく、同じ言葉を使っていても人や立場によって異なるものを思い浮かべてしまうことで、どのような認識のズレが起きるのかを整理することです。
システムとは
システム(System)という言葉は外来語ですが、日本語に直訳されて、「系」という字で使われています。
- 太陽系(Solar System)
- 生態系(Ecosystem)
- 神経系(Nervous System)
- 消化系(Digestive system)
などはシステムの例ですが、ある範囲の要素と関係性を、観察者の視点から切り取ったものを意味しています。各分野ごとに目的に応じて、モデル化し可視化することで、システムは詳細な議論や考察を行うのに便利に機能します。
ちなみに、銀河系(Milky Way System)は太陽系を含んだシステムで、日本の生態系はアジアの生態系を構成するシステムという表現もあります。システム同士の関係性には包含関係を持つものもあるからです。
システムは、コンピュータやソフトウェアの言葉?
一方で、日本語でシステムと言うと 「コンピュータを含むざっくりと凄そうななにか」という感覚になるのはなぜでしょうか?
ここまで見てきたように、本来のシステムという言葉はコンピュータに限定された概念ではありません。それにもかかわらず、日本語で「システム」と言うと、多くの場合はコンピュータやアプリケーションなどを連想します。
私の見立てでは、コンピュータ工学がシステムという考え方を活用して生み出したものが、日本の文化的社会基盤となっているからだと考えています。
コンピュータ工学
コンピュータ工学は、数学や物理学に近いところから応用を議論する体系です。(体系という言葉もシステム)
コンピュータ工学には、複雑な対象をシステムとして整理し、分析や改善を行うシステム工学的な考え方が広く活用されており、その中で様々な応用を見つけてきました。
その応用例が、スマートフォン、家電、自動車の制御装置として日常に溶け込んでいます。そのため「システム=コンピュータ関連のもの」という印象が文化的に定着しやすい、というのが私の見立てです。
オートマトンという分野
では、コンピュータ工学は実際にどのようにシステムを扱っているのでしょうか。
例えばコンピュータ工学では、システムを数学的に扱う方法の一つとしてオートマトンという考え方があります。ここでは「ある状態にあるとき、ある入力を受けると、決まった状態に遷移する」という仕組みで、非論理的な展開を排除してモデル化しています。
自動販売機の動作を例にすると、以下のような図として表現できます。
重要なのはコンピュータ工学が システム を活用することによって、客観的な議論基盤を構築し、様々な仕組みを生み出したり改善しているということです。
つまり「システムを活用する」という表現は、コンピュータ工学の文脈では 「様々な仕組みを生み出したり改善する」 という意味が含まれていますね。
そしてまさに、一般に語られる 「システムの活用」 は、このような意図で表現されているのではないでしょうか?
業務システムとは
ここまでは「システム」という言葉から整理してきましたが、ここからは本題である「業務システム」という言葉について考えてみます。
まず、業務は一般的には継続して行う仕事・作業を指す言葉です。実施する目的は人によって違うかと思いますが、主に利益や信念の実現など重要性の高い性質を持ちます。
業務は多くの場合、 事務処理・税務対応・法務対応・営業活動といった作業プロセスを切り出すことで、作業分担や責任分解が可能です。それにより、業務全体がシンプルに考えられ、人的リソースを適所に配分することが可能になります。
会社では当然のような考え方かもしれませんが、 このような整理が「業務システム」ということになります。
業務システムの改善とは
一方で、エクセルシートやERP、CRM、自社のデータベースを指して「業務システムを改善してほしい」ということを言われることがあります。
これらのツールは概念的にはアプリケーションですが、これまでの内容を踏まえると実際的には「コンピュータ工学的に、業務システム を扱って目的に近づきたい」という要望に近いと考えています。
業務プロセスのヒアリング
業務システムの改善 を行うには、まずはシステムを可視化するために、業務に関わる事実を整理していきます。例えば「商品を出品する」という業務を整理する場合は、以下のようにモデリングできます。
在庫にある商品を、陳列や値札を貼ったりすることで商品出品されるというモデリングにより、出品業務をシステムとしてモデル化することができました。
このモデルだけでも十分、業務についての客観的な議論のためのツールとして機能します。
例えば、私が過去に関わらせていただいたリサイクルショップだと、確かにこのシステムで業務されていました。そしてこのモデルだけでは、個別の業務課題について議論するにはシンプルで情報が少ないという事実を明らかにします。
そこでこのモデルを元に、いつ?・どこで?・だれが?・どのように?・なぜ?・発生条件・例外・他業務との関係性・コスト・副作用 などのより業務改善に関係のありそうな情報をヒアリングしていきます。
実際に完成した新たなモデルがこちらです。
このリサイクルショップでは、 出品業務の前段階として出品判断を行う業務に作業負荷がかかっていたので、分解しました。
このくらいの粒度で整理できれば、 「もし仕入れ業務の段階でカタログを作っていれば、出品業務で写真撮影・デジタル化作業は不要では?」などといったように、さらに進んだ仮説考察がしやすくなるというわけです。
このケースでは、 仕入れ業務の段階ではカタログを作っていませんでしたので、仕入れ業務はこの図には表れていませんが、作業コストの削減などを行いたい場合は、理想の形を同様にモデリングして業務システム化します。
理想の形のシステム(To-Be)と、現実のシステム(As-Is)の差をどのように埋めていくか?を考えることで、論理飛躍を最小限にして安全に改善していくことが可能になるというわけです。
このケースでは、実務作業をされている方から 業務プロセス を詳細に共有いただけたことで、出品判断業務 を出品業務 のシステムから分離することができました。
この時点では、具体的なデジタルツールを何も導入できていませんが、出品判断業務を出品業務から分離できることが判明したため、ワンオペから解放されるきっかけになりました。
なぜ、コンサルが来ると現場は大変になるのか?
よく、外部のコンサルティング会社が来てから、現場作業が複雑になったという話をよく聞きます。これはなぜ起きるのでしょうか?
例えば、業務システムを改善すると言って、単にERPやCRMといった高機能システム(ツール)を導入するということはありがちなパターンです。これらのツールは、業務の一般パターンを想定して効率化したパッケージですので、導入後は一般的には改善が強く期待されます。加えて特注のツールと違って、一般ツールの商品性質から考えて、導入実績や導入成功率が数値化されやすく、導入の営業がパターン化しやすいという特徴もあります。
少なくとも、前項で挙げた導入パターンよりも、 短期導入・低コスト・詳細なシステム整理は不要という特徴が確認できます。
極端な例かもしれませんが、業務プロセスを担っている現場をシステムとして正しく理解しないと、現場の作業が気づいたときには変化してしまいます。
現場目線に立つと「業務を理解していない人が勝手にルールを変えた」と感じるケースにつながります。報告や連絡、相談もなしにプロセスを変えておいて、現場の能力不足で片付けるという展開はあまりにも酷い結果ですよね。
同様の役割を担う人間として、システム設計をする際には確実に押さえておかなければならないと、責任を感じます。
まとめ
私自身は「言葉は伝わればいい」という感覚を持っています。
「母数」や「可能性が高い」などは文脈的に多くの場合意味は伝わります。 (専門家という立場上、こちらから発信することはありませんが)
ただ誤用によって複雑になるケース だけは避けるべきです。
以下のような誤用が流布されることは、日本全体のデジタル活用の妨げにもなっていると考えています。 CRMとERPを比較!違いや選定・導入のポイントを解説
もしあなたが、システム導入で不安やトラブルを抱えているなら、一度本来の言葉に立ち返って整理することで見えてくるものがあるかもしれません。
私たちTubeClipはいつでも、そのお手伝いをさせていただきます。